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広島高等裁判所松江支部 昭和51年(ネ)74号 判決

控訴人(原告) 福田定治 外三名

被控訴人(被告) 岡村清太郎

主文

本件控訴をいずれも棄却する。

控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実

当事者の求める裁判

(一)  控訴人ら

「原判決を取り消す。原判決別紙第一目録記載の各土地のうち同別紙図面記載の(イ)(ロ)(ハ)(ニ)(ホ)(ヘ)(イ)の各点を順次直線で結んだ範囲内の土地七七・七五平方メートルが控訴人らの所有であることを確認する。被控訴人は、控訴人らに対し、右第一目録記載(一)の土地につき、鳥取地方法務局昭和四二年一二月二日受付第一六九六六号同年四月二九日付売買を原因とする所有権移転登記の抹消登記手続をせよ。被控訴人は、控訴人らに対し、右第一目録記載(二)の土地から、前記図面記載の(イ)(ロ)(ト)(ニ)(ホ)(ヘ)(イ)の各点を順次直線で結んだ範囲の土地五一・五〇平方メートルを分割し、右範囲の土地につき、前記法務局昭和二八年六月三〇日受付第四六八六号昭和二二年九月一〇日付売買を原因とする所有権移転登記の抹消登記手続をせよ。被控訴人は、控訴人らに対し、原判決別紙第二目録記載の各建物のうち、前記(一)の土地七七・七五平方メートルの上にある部分を収去して、右土地を明け渡せ。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決

(二)  被控訴人

主文同旨の判決

二 当事者双方の主張及び証拠関係

当審における証拠関係を次のとおり付加するほか、原判決事実摘示のとおりであるから、ここにこれを引用する(但し、原判決四枚目表一一行目から一二行目にかけて及び同一〇枚目表二行目から三行目にかけて「保留地の変更通知に対する通告」とあるのを、いずれも「保留地の変更通知に対する通告について(回答)」と改め、同五枚目表四行目の「知悉しながら、」の次に「被控訴人の本件土地を取得しようとの企図に応じて」と挿入し、同六枚目表八行目の末尾に「しかも、右飛換地をすることについて土地区画整理審議会の同意も得ていない。」を付加し、同八枚目裏一一行目の「R一六」を「R一六の一」に、同一二枚目表一行目の「さきに亡幾名義」から三行目の「差し引き」までを「さきに亡幾名義で譲渡予約をした保留地二三坪五合に対する対価として予納されていた二万三五〇〇円を差し引き」に訂正する。)。

(証拠関係)〈省略〉

理由

当裁判所も控訴人らの本訴請求はいずれも棄却すべきものと判断するが、その理由は次のとおり訂正、変更するほか、原判決理由説示と同一であるから、ここにこれを引用する。当審において提出、援用された各書証、各証言及び各本人尋問の結果も右結論を左右しない。

(一)  原判決一四枚目表七行目の「変更通知に対する通告」を「変更通知に対する通告について(回答)」に訂正する。

(二)  同一六枚目表末行の末尾に「被控訴人の本件土地を取得しようとの意図に応じて」を付加する。

(三)  同二一枚目表八行目の「甲第三九号証の一ないし五」の次に「第五一号証の一、二」を挿入する。

(四)  同じページ一一行目の「被告本人尋問の結果」の前に「成立に争いのない甲第一八号証、乙第四号証、当審証人森下久平の証言によつて真正に成立したと認める乙第二二号証の三、右証言、」を挿入する。

(五)  同二三枚目裏五行目の末尾に「(なお、控訴人らは、本件換地処分によつて、山本賀久や被控訴人の所有地が従前の土地よりも増加する結果となつたことを本件換地処分が著しく公平を欠く理由の一つとして主張するが、右の増加がわずかなものであること及びこのような結果になつたのは、前認定のような経過で旧新町六番、七番の土地について飛換地がなされたので、保留地を右両名に譲渡したためであることは、その主張自体から明らかであるし、本件全証拠によるも施行者が右六番、七番の各土地の所有者に不利益を与える目的でこのような措置をとつたものとは認められない。従つて、すでに述べたとおり、旧新町六番、七番の土地についてこれに照応する換地が指定されたものと認められる以上、右の事情を理由に本件換地処分の無効を主張することはできないというほかない。)」を付加する。

(六)  同じページ七行目の末尾に次の文言を付加する。

「(なお、控訴人らは、飛換地をすることについて土地区画整理審議会の同意がない旨主張するところ、前記甲第一八号証、成立に争いのない同第五二号証の一、二によれば、右飛換地について土地区画整理審議会の関係工区に係る小委員会が、本件の飛換地に関する議案を可決していることは認められるが、右審議会自体がこれを同意した事実を直接認めるべき的確な証拠はない。しかしながら、控訴人ら主張の手続上の瑕疵が仮にあつたとしても、これが本件換地処分を当然に無効ならしめるほど重大明白なそれであるとは到底解されない。)」

よつて、本件控訴は理由がないからいずれも棄却することとし、控訴費用の負担につき民訴法九五条、九三条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 竹村寿 前川鉄郎 瀬戸正義)

原審判決の主文、事実及び理由

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一、当事者の求めた裁判

一、原告ら

(一) 別紙第一目録記載の各土地のうち別紙図面記載の(イ)(ロ)(ハ)(ニ)(ホ)(ヘ)(イ)の各点を順次直線で結んだ範囲内の土地七七・七五平方メートルが原告らの所有であることを確認する。

(二) 被告は、原告らに対し、別紙第一目録記載(一)の土地につき、鳥取地方法務局昭和四二年一二月二日受付第一六九六六号同年四月二九日付売買を原因とする所有権移転登記の抹消登記手続をせよ。

(三) 被告は、原告らに対し、別紙第一目録記載(二)の土地から、別紙図面記載の(イ)(ロ)(ト)(ニ)(ホ)(ヘ)(イ)の各点を順次直線で結んだ範囲の土地五一・五〇平方メートルを分割し、右範囲の土地につき、鳥取地方法務局昭和二八年六月三〇日受付第四六八六号同二二年九月一〇日付売買を原因とする所有権移転登記の抹消登記手続をせよ。

(四) 被告は、原告らに対し、別紙第二目録記載の各建物のうち前記(一)の土地七七・七五平方メートルの上にある部分を収去して、右土地を明け渡せ。

(五) 訴訟費用は被告の負担とする。

二、被告

主文同旨の判決。

第二、原告らの主張

一(一) もと鳥取市新町六番、七番の各土地(合計、公簿上一九坪二合一勺。以下、本件土地という)は、原告らの実母福田幾の所有に属し、昭和一八年八月五日、同人の死亡に伴う遺産相続により、原告らの共有に帰した。

(二) 右土地は、別紙図面記載(イ)(ロ)(ハ)(ニ)(ホ)(ヘ)(イ)の各点を順次直線で結んだ範囲に該当する。

(三) 被告は、現在右範囲の土地を含むものとされている別紙第一目録記載の土地(戎町一一四、一一五番)の所有権を取得したものとして、請求の趣旨(二)(三)記載の各登記を経由し、地上に別紙第二目録記載の建物を所有して右範囲の土地を占有している。

(四) しかし、原告らが本件土地の所有権を失つた事実はなく、被告の所有権取得は右(二)の範囲の土地につき無効であるから、前記の判決を求める。

二 被告の主張二の(一)の事実、同(二)の換地処分等がなされた事実はいずれも認める。

三 本件土地に対する換地に関する一連の処分、すなわち、本件土地についての昭和三〇年一〇月二一日付換地予定地指定処分、同三八年一月八日付仮換地変更指定処分、同年六月三日付第五工区の換地処分、同年九月五日付湯所町二丁目三三三番地(以下、本件換地という)の原告ら名義の所有権保存登記、同四二年四月二一日付第三工区の換地処分は、いずれも重大かつ明白な瑕疵があり、無効である。

(一) 右各処分は、真実の権利者である原告らを除外し、何らの権限を有しない訴外福田万太郎(亡幾の夫)を相手としてなされたものである。

(1) 鳥取県知事は、昭和三〇年一〇月六日付万太郎宛の「物件の移転協議について」と題する書面を兵庫県城崎郡香住町の同人の住所に送付して、本件土地上にあつた亡幾名義の住宅の移転を求め(右住宅は後日万太郎によつて吉方町へ移築されたが、鳥取市長の嘱託に基づき同二七年四月一七日焼失を原因として滅失登記がなされている)、同 三〇年一〇月二一日付亡幾宛換地予定指定通知書、同年一一月四日付亡幾宛の湯所町の替費地の譲渡予約書をも万太郎に送付し、これらはいずれも同人が受領しており、原告らはその事実を知らなかつた。この段階では、鳥取県知事は、本件土地の権利者を万太郎と誤認して手続を進めていたものと考えられる。

(2) 昭和三七年九月二六日、本件土地につき原告らのための相続登記が、鳥取市の代位により、かつ、原告らの住所を正しく表示して行なわれた。しかるに、その後においても、鳥取市長は、昭和三八年一月二六日、「保留地の変更通知に対する通告」なる万太郎宛の書面を同人に送付し、同年六月三日、湯所町の土地についての原告ら宛の換地処分通知をことさらに一括して万太郎に送付し、同年七月二〇日、万太郎宛の「特別換地(飛換地)の保存登記について」と題する書面に、原告ら四名を申請名義人とし訴外中村健治をその代理人とする記載のある土地所有権保存登記申請書と右登記申請についての委任状を添付して、万太郎に送付し(なお、右書面には、委任状への押印は認印で足る旨を付記している)、これを受領した同人において、原告らに無断で有合せの認印を右委任状に押捺して、右申請書とともに市当局に提出し、これによつて、本件換地についての前記所有権保存登記がなされた。なお、同四一年一二月二五日付原告ら名義の鳥取市長宛承諾書をも、万太郎が勝手に作成、提出した。

前記相続登記以後の段階においては、鳥取市長は、本件土地の真の所有者が原告ら四名であることおよびその住所を知悉しながら、被告に本件土地を取得させるため、故意に被告らを除外し、無権限の万太郎のみを相手として、本件換地処分に関する一連の手続を進めたことが明らかである。

(3) 原告らは、もとより、万太郎に右の諸手続を委任したことはなく、右のような経過をまつたく知らなかつたところ、昭和四二年七月三日、土地区画整理清算金通知書の送達を各別に受けて、初めて(原告定治は、本件換地につき、訴外魚崎晴憲の代理人から同年九月一八日付書面で登記手続請求を受けた時に初めて)、本件土地につき換地処分がなされたことを知つたのである。

(4) 鳥取県の定めた鳥取都市計画事業鳥取火災復興土地区画整理施行規程一八条およびこれを受けた鳥取市条例七号の三一条一項によれば、右事業施行地区内に権利を有する者で鳥取市内に居住しない者は、事業に関する通知または書類の送達を受けるため、鳥取市内もしくは隣接町村に居住する者から代理人を指定し、その旨を施行者に届け出るべきものと定められている。しかるに、万太郎は、右の代理人として届出のされたものでなく、しかも鳥取市内もしくは隣接町村に居住しているものではないから、同人を相手としてなされた本件換地処分等の手続は、右規定にも違反する。

(二) 前記各処分は、旧都市計画法一二条二項、耕地整理法三〇条一項(現土地区画整理法八九条)に定めるいわゆる照応の原則則に反する。

(1) 旧新町一ないし八番地のうちでは、本件土地のみが約一・五キロメートル離れた湯所町に飛換地され、他はいずれも現地換地されており、その周辺の土地も、特殊な配置計画に基づく寺院の用地を除いては、すべて現地換地である。

(2) 鳥取県知事の担当職員は、当初、隣地所有者の訴外山本賀久および被告とともに万太郎に対し、本件土地の前面の道路が拡張されるため、本件土地が大きく削り取られ利用価値が乏しくなる旨を説いて、飛換地と地上建物の移転とを承諾させたのであるが、実際には右道路拡張の計画はすでに取り止めになつていた。しかも、飛換地がなされた結果、被告は、その所有土地一五九・七六平方メートルに対する換地として戎町一一五番地一三六・〇四平方メートルを取得したほか、替費地となつた同一一四番地二六・四四平方メートルの譲渡を受けて、合計一六二・四八平方メートルを所有し、また、訴外山本賀久も、その所有の従前地新町八番の一の一〇坪に対する換地として同町二二一番の二の二六・九八平方メートルを取得したほか、保留地であつた戎町一一六番一九・三九平方メートルの譲渡を受け、いずれも、従前地よりかえつて所有地を増す結果となつている。したがつて、本件換地処分が著しく公平を欠くことが明らかである。

(3) 本件換地処分は、従前地実測七七・七五平方メートル(二三坪余、公薄面積一九坪二合一勺)に対し、換地四四坪六合八勺と交付金七万七九四六円とをもつて等価とするものである。しかし、従前地の本件土地が鳥取市内有数の繁華街の一画にある商業地であるのに対し、換地先の湯所町は市の中心部から約一・五キロメートル隔たる辺ぴな所であつて、その環境、利用価値には甚だしい格差があつた。両土地の価値を固定資産評価額によつて比較すると、換地処分終結の年である昭和四二年度は、本件土地が一平方メートル当り(以下同じ)約二万二二二八円であるのに対し、本件換地が約五四四五円で、後者は前者の約四分の一であり、昭和四九年度は、前者が約四万六七四〇円、後者が約一万四五五〇円で、後者が前者の約三・五分の一である。さらに、昭和四〇年に、本件土地に隣接する新町八番宅地九坪四合二勺が、地上建物および電話加入権等を含めてではあるが、代金四八〇万円で取引されており、宅地のみの価格でも坪当り四〇万円以上であつたとみられるのに対し、湯所町の土地の同年度における価格については坪当り五〇〇〇円程度とする評価があり、この価格によれば、本件土地の価格は七〇〇万円以上であるのに対し、本件換地は二二万円程度にすぎず、従前地に照応する換地が与えられたものとはとうていいえない。

第三、被告の主張

一 原告らの主張のうち(一)、(三)は認め、(二)は否認する。

二(一)(1) 別紙第一目録記載(二)の土地については、被告は、昭和二二年九月一〇日、訴外垣田章からその従前地である新町五番の一宅地四八坪三合三勺を買い受け、同二八年六月三〇日所有権移転登記を経由していたところ、右土地につき、鳥取都市計画事業鳥取火災復興土地区画整理事業において、事業施行者鳥取県知事が昭和三〇年一〇月二一日にした換地予定地指定処分(一〇四B、R二四号、四〇坪九勺)およびその後の換地予定地一部変更処分を経て、後継事業施行者鳥取市長により昭和四二年四月二一日換地処分がなされ、あわせて町名・地番が変更されて、戎町一一五番となつたものである。

(2) 同目録記載(一)の土地(戎町一一四番)については、昭和三二年一月二四日、右一一五番の土地に接続する替費地(一〇四B、R二三号)として鳥取県知事と被告との間に譲渡予約が成立し、次いで、右替費地につき後継事業施行者鳥取市長と被告との間に仮譲渡契約がなされ、被告は、その譲渡代金を全納して、同四二年四月二九日付売買に基づき所有権取得登記を経由した。

(二) 前記土地区画整理事業において、その第三工区内にあつた本件土地について、鳥取県知事は、昭和三〇年一〇月二一日、登記簿上の所有名義人福田幾を名宛人として、第五工区内にある鳥取市湯所町所在宅地一九坪(B一八一、R一六)をその換地予定地に指定し、同年一一月四日幾名義で右換地予定地に接続する保留地二三坪五合(B一八一、R一六の二)の払下予約をし、後継事業施行者鳥取市長は、同三八年一月八日、右換地予定地と保留地とを合併した宅地四四坪六合八勺を換地予定地とする旨の変更処分をし、従前地二筆について原告らのために相続登記を代位申請したうえ、同年六月三日換地処分を行ない、換地につき湯所町二丁目三三三番として原告ら名義に所有権保存登記を経由した。そして、第三工区においても、同四二年四月二一日換地処分がなされた結果、その公告の翌日である同月二九日、原告らの本件土地に対する所有権は確定的に消滅した。

三(一)(1) 原告ら主張三(一)(1)の各書面が万太郎宛に送付されたことは認める。

当時、本件土地は登記簿上亡幾の所有名義であり、同人の死亡および原告らの相続の事実は明らかでなかつたので、鳥取県知事は、亡幾宛に換地予定地指定処分を行なつたもので、右処分は相続人に対して効力を生じたものと解すべきである。そして、万太郎は、当時、鳥取県知事に対し後記陳情書を提出し、本件土地上の建物の移築および移転補償の協議をし、補償金を受領するなど、福田家の主宰者として行動し、これについて当時何人からも異議がなかつたので、同知事は、万太郎に妻幾を代理する権限があるものと信じて前記換地予定地指定通知書等を万太郎宛に送付したものである。

(2) 原告ら主張三(一)(2)のうち、右主張のとおりの本件土地についての相続登記、本件換地についての所有権保存登記がなされたこと、鳥取市長が、万太郎宛の「保留地の変更通知に対する通告」なる書面(これは万太郎自身の照会に対する回答である)、右保存登記の申請書、委任状および右委任状への押印を依頼する書面を万太郎に送付したことは認め、その余は否認する。

鳥取市長の担当職員は、原告ら四名の住所がそれぞれ異なつていたため、その実父で、従前から本件換地に関する種々の交渉にも事実上関与していた万太郎に対し、右委任状への押印を取りまとめて返送してくれるよう依頼したにすぎない。右委任状への署名押印および昭和四一年一二月二五日付承諾書の作成提出は、いずれも原告らが自らしたものである。

(3) 原告高橋壽は、本件土地に隣接する新町五番の一地上の家屋(現在被告の子岡村純男の所有)に居住し、本件土地上の家屋が吉方町に移築される状況を現認しており、原告福田竺男、同福田泰男も移築された家屋に移住し、同福田定治も右移築の事業を聞き知つたはずであるから、原告らは、本件土地に対する換地の手続が進行していることを知つて、これについて万太郎に一切を委ねていたものであつて、本件換地処分もその当時に了知していたのである。

(4) 原告ら主張三(一)(4)の手続違背は、処分を当然無効ならしめるような重大明白な瑕疵にあたらない。

(二)(1) 本件換地処分は、土地区画整理法九五条二項の規定に基づいて、第三工区内にあつた本件土地に対し第五工区内に換地を定めたものであつて、適法である。

(2) 鳥取県知事が当初定めた換地計画によれば、被告および訴外山本賀久の各所有地ならびに本件土地はいずれも道路拡張により大巾に減歩され、三者の土地に従前どおり三戸の建物を保持することが困難な状況となるため、被告、山本および万太郎の三者が協議した結果、万太郎が本件土地に対する現地換地を受けず他に移転してもよい旨を承諾し、その旨の陳情書を知事に提出したので、知事は、昭和三〇年一〇月二一日、本件土地の換地予定地を第五工区内に指定する処分を行なつたものである。

(3) 原告らの主張三(二)(3)の本件土地と本件換地との価格の比較は争う。

本件土地は、鳥取市の中心部に近いが、若桜街道に面しないで横通りに沿う場所であつて(原告ら主張の新町八番の土地は若桜街道に面するもので、比較にならない)、利用価値はさほど高くはなく、他方、本件換地は国道二九号線に面する便利の良い場所で、面積も二倍になつているので、両者の間に原告ら主張のような差はなく、若干の差については次のとおり金銭清算がなされているのである。

(4) 鳥取市の評価委員会の評定と区画整理審議会の認定とによる土地の権利価格は、本件土地が二五万〇二一〇円、本件換地が一七万二二六四円であつて、これはおおむね当時の時価を表わしたものである。そして、鳥取市長は、本件換地の換地清算につき、右権利価格から、さきに亡幾名義に払下げをした保留地二三坪五合の払下対価二万三五〇〇円を差し引き、その残額一四万八七六四円を原告らから徴収すべく、昭和三八年六月三日原告らにその旨を通知し、他方、本件土地については、右権利価格二五万〇二一〇円の清算金を交付することとなり、同四二年四月二一日原告らに換地処分の通知をしたが、原告らにおいて、前者の徴収金の納入も後者の交付金の受領をもしないので、両者を相殺し、差額一〇万一四四六円につき同四三年一二月五日弁済供託をして、清算を結了した。

第四、証拠関係〈省略〉

理由

一 原告らが、亡福田幾を相続して、本件土地(旧新町六、七番)を所有していたところ、これにつき被告主張二、(二)のとおりの換地予定地指定処分、同変更処分、各換地処分(以下、これらを一括して本件各処分ということがある)および各登記がなされたこと、被告がその主張二、(一)の経緯により別紙第一目録記載の各土地の所有権を取得し、その地上に同第二目録記載の各建物を所有していることは、当事者間に争いがない。成立に争いのない甲第一八、一九号証、被告本人尋問の結果によれば、換地処分前の本件土地のあつた位置と、現在の別紙第一目録記載の各土地に含まれる別紙図面記載の(イ)(ロ)(ハ)(ニ)(ホ)(ヘ)(イ)の各点を順次直線で結んだ範囲の土地とは、少なくとも一部分においては合致し、したがつて、被告が従前の本件土地の一部を占有しているものであることが認められる。

二 原告は、本件土地の換地に関してなされた本件各処分が無効である旨主張するので、これについて検討する。

(一)(1) 当初の土地区画整理事業施行者である鳥取県知事が、原告主張三、(一)(1)の各書面を原告らの父訴外福田万太郎に送付したこと、後継事業施行者鳥取市長が同三、(一)(2)の万太郎宛「保留地の変更通知に対する通告」なる書面、本件換地(湯所町二丁目三三三番)についての原告らの名義による所有権保存登記の登記申請書、右登記申請の委任状と右委任状への押印を依頼する書面を万太郎に送付し、右申請書および委任状を用いて右登記がなされたことは、当事者間に争いがない。

(2) 成立に争いのない甲第五、六号証、第一一ないし一五号証、第二二号証、第二三号証の一ないし三、第二四号証、第四三号証、第四五号証、乙第四号証、第一三号証、第一九号証、第二〇号証の一ないし四、第二一号証、証人福田万太郎、同中村健治の各証言(各第一、二回)、原告本人高橋壽、同福田竺男の各尋問の結果、弁論の全趣旨ならびに右(1)の争いのない事実を総合すると、以下の事実が認められる。本件土地区画整理事業の施行にあたり、鳥取県知事の担当係官は、本件土地の登記簿上の所有名義人である亡幾の相続人が誰であるかを確認することをしなかつたが、同女の夫であつて、同女の死亡後も昭和二九年ころまで本件土地上の同女名義の家屋に居住していた万太郎に、本件土地につき少なくとも管理権限があるものと認めて、同人との間に換地に関する一切の交渉を進め、前記関係書類をも兵庫県城崎郡香住町居住の万太郎に送付した。後継事業施行者たる鳥取市長の係官においても、亡幾の相続人が原告らであることが判明して、本件土地につき同三七年九月二六日、鳥取市の代位により原告らのための相続登記を経由した後も、引き続き万太郎を原告らの代理人として取り扱い、右相続登記の登記済証を万太郎に交付し、前記保存登記申請書類のほか、同三八年一月八日付仮換地変更指定通知、同年六月三日付湯所町の土地についての換地処分通知、同四二年四月二一日付本件土地についての換地処分通知等原告らを名宛人とする各書面をも万太郎に送付した。万太郎は、同三〇年七月五日、自己の名義で、かつ、本件土地の隣地の所有者訴外山本賀久および被告と連名で、三者が協議の結果、本件土地に対しては飛換地を承諾するから換地を変更されたい旨の陳情書を鳥取県知事宛に提出し、同年一〇月中、本件土地上にあつた亡幾所有名義の家屋の移転につき同知事と協議を遂げて、補償金を受領したうえ、万太郎が別途購入した鳥取市吉方町の土地に右家屋を移築し、亡幾宛の換地予定地指定通知を受領した後、同年一一月四日、右換地予定地に隣接する替費地(B一八一、R一六の二)の譲渡予約を亡幾の名義によつて同知事との間に締結し、仮換地変更指定通知および本件換地についての換地処分通知を受領した後、前記のとおり押印の取りまとめを依頼された保存登記申請手続のための委任状の原告らの名下に有合印を押捺して、鳥取市長に返送し、同四一年一二月二五日、従前地と換地とが異なる工区に跨る本件換地処分に関しては金銭清算の方法によつて処理されることを承諾する等の趣旨を記載した承諾書に原告ら名義の署名押印をして、鳥取市長に提出し、さらに本件土地に対する換地処分通知をも受領したほか、その間、本件土地の評価額したがつて原告らに交付されるべき清算金の額等について、事業施行者に対する陳情、交渉を再三行なつていた。鳥取市長は、昭和四二年七月三日、原告らに交付すべき清算金は前記被告の主張三、(二)(4)のとおり計算された差額である一〇万一四四六円と決定した旨の通知書を、初めて原告らに各別に送付し、原告らが右清算金を受領しないため、昭和四三年一二月五日、右金額の弁済供託をした。

なお、以上の過程において、鳥取県知事および鳥取市長が、被告に本件土地を取得させるため、故意に原告らを除外して手続を進めたという原告ら主張事実を認めるべき証拠はない。

(3) 証人福田万太郎(第一、二回)および同高橋節の各証言、原告本人福田定治、同福田竺男および同高橋壽の各尋問の結果(各一部)、被告本人尋問の結果によれば、従前、本件土地および地上の家屋はもつぱら万太郎の管理するものであつたこと、原告竺男は、昭和三〇年ころは病気で入院していたが、右家屋が区画整理により移転されることはその当時知つており、同三二、三年ころ退院してからは、万太郎によつて吉方町に移築された右家屋に居住したこと、原告泰男は、右の移転直前まで右家屋に居住し、その後は香住町の万太郎方に同居して現在に至つており、したがつて、右移転の事実をその当時知つていたものとみられること、原告壽は、万太郎とは疎遠であつたが、本件土地に隣接する被告所有の土地上の借家に居住して、前記移転の事実をその直後には目撃し、その後本件土地上に一部跨る位置に移動された右借家に引き続き居住して現在に至つていること、原告定治は、以前から県外に居住していたが、その生家のある本件土地が区画整理にかかることはその当時伝え聞いていたこと、しかるに、原告らは、右のようにして本件土地について区画整理が進行していることを知りながら、その成行について格別の関心を払わず、換地に関する手続の一切を万太郎が処理するのに任せ、右手続の完結まで同人に対しても施行者に対しても何らの異議を述べなかつたこと、以上の事実が認められる。前掲各原告本人尋問の結果中、以上の認定に反する部分は信用することができない。

(4) ところで、原告らは、前記清算金通知書を受領するまでは、本件土地が亡幾の遺産相続により原告らの所有に帰したという事実を知らなかつた旨供述するところ、これをただちに信用すべきかどうかは疑問であるが、一歩譲つてこれが真実であるとするならば、右認定の事実関係のもとにおいても、原告らが万太郎に本件土地の処分につき代理権を与えていたとまで評価することは困難である。しかし、換地処分(および仮換地指定処分)はいわゆる対物処分であつて、人的要素をその内容としないものであることからすると、関係権利者を確定しこれを手続に関与させることは本質的に不可欠なことではないと考えられるから、施行者が無権限者を土地所有者の代理人として取り扱い、これに換地処分通知等を送達したことがあつても、そのことだけで換地処分が当然に無効となるものと解することは相当でなく、その点の瑕疵が処分の効力にどのような影響を及ぼすかは、具体的事実関係によつて考えるべきである。本件においては、前記事実関係によれば、施行者は、本件土地の真正な権利者を正当に覚知しつつ、万太郎をその代理人として手続を進めたものであつて、同人に代理権があると信じたことには一応無理からぬ事情があつたものと認めることができ、行政手続として著しく杜撰であつたというべきではない(この点に関し、原告らの主張三、(一)(4)の代理人の選任、届出に関する規定の違背が、処分を当然に無効ならしめるほどの重大な瑕疵にあたるものでないことは、いうまでもない)。他方、右認定のとおり、原告らは、本件土地につき換地に関する手続が進行しており、実父の万太郎がその一切を処理していることを知りながら、多年これを放任していたのであるから、本件各処分がなされた事実をもその通知が万太郎に送達された当時容易に知りうべき立場にあり、施行者としてもそのことを当然に期待しうる状況にあつたものというべきであり、また、換地処分完結後に従前地の所有権が自己に属することを初めて知つた原告らの利益を保護すべき要請は、さほど強度なものではないと考えられる。そうだとすると、本件各処分において、万太郎を原告らの代理人として取り扱つた手続上の瑕疵は重大かつ明白なものとまでいうことはできず、本件各処分は、その通知を万太郎が受領したときに、効力を生じたものと解すべきである。

なお、すでに死亡している幾を名宛人としてなされた当初の換地予定地指定通知はその真正な相続人である原告らに対するものとしての効力を認めうることはいうまでもない。また、本件換地についてなされた前記所有権保存登記が原告らの意思によらない申請に基づくものであつたとしても、そのことは換地処分自体の効力、したがつて本件土地の権利の存否に関係のないことである。

(二)(1) 換地処分におけるいわゆる照応の原則とは、まず、換地と従前地とが、その位置、地積、利用状況、環境等を総合的に勘案しておおむね同等になるように、換地を定めるべき要請をいうものであり、一般に、従前地の所在位置にそのまま換地を定めるいわゆる現地換地が右の要請によく適合することが多いとはいえても、土地区画整理事業の目的を達成するためには現地換地を困難とする事情がある場合に、他の位置に換地を定めるいわゆる飛換地も、前記のような諸条件を考慮してなされるかぎり、許されるものであり、その場合に、換地が施行地区内の他の工区にわたることも法の予定しているところである。

また、照応の原則とは、一面において、各土地の権利者相互間の公平、均衡が保たれるように換地を定めるべきことをも意味するのであるが、近接する数個の土地のうちの一個のみについて従前地から隔たつた所に飛換地を定めることも、施行者の恣意に出たものでなく、減歩による各宅地の著しい過小化を防ぎその適正な利用を図る等合理的理由によるものと認められる場合には、右の原則に反するものではないというべきである。

そして、前記のような諸条件を考慮して換地を定めた場合に、なお不均衡が生ずるときは、その不均衡部分につき金銭による清算がなされるのである。

(2) 前掲乙第四号証、証人福田万太郎の証言(第一、二回)、被告本人尋問の結果ならびに弁論の全趣旨によれば、鳥取県知事の当初の換地計画においては、本件土地に対しても現地換地がなされることとなつていたが、これによると、道路の拡張のため本件土地ならびに隣接の被告および訴外山本賀久各所有土地のいずれもが過小となつて、従前どおりの建物を各地上に保持することが困難となる状況にあつたため、県係官のあつせんにより万太郎、被告および山本の三者が協議した結果、昭和三〇年七月五日、右の状況を理由に、本件土地については飛換地を承諾するから換地計画を変更されたい旨の鳥取県知事宛前記陳情書を三者連名で提出し、同知事はこれに基づき換地計画を変更して、本件土地に対する前記換地予定地指定処分をするに至つたものであることが認められる。

ところで、万太郎は、本件土地について正当な処分権限を有しなかつたものではあるが、前記二(一)認定の事実関係によれば、施行者において同人を正当な権限を有するものとして、取り扱うにつき相当の理由があつたものと認められるから、同人の承諾に基づいて換地計画の変更ないし換地予定地指定処分をしたことが、恣意的な処置であるということはできず、また、右事実によれば、飛換地を定めるべき客観的合理的理由も存在したものと認めることができる。

もつとも、原告らは、右陳情書を提出した当時本件土地に接する道路の拡張予定はすでに取り止めになつていたにかかわらず、万太郎にはそのことが知らされていなかつた旨主張し、甲第三九号証の一ないし五の記載、証人福田万太郎の証言(第二回)および原告本人高橋壽の尋問の結果中には右主張に副う趣旨の部分(ただし取り止めの時期は必ずしも明らかでない)があるが、被告本人尋問の結果および弁論の全趣旨に照らし、信用することはできない。

そうだとすると、原告ら主張のように、旧新町一ないし八番の一区画の土地のうちで、他工区への飛換地がなされたのが、本件土地のみであつたとしても、ただちに公平に反するものということはできない。

(3) 換地と従前地との照応は、土地区画整理事業開始の時を基準として判断されるのが原則であり(最判昭和三六年一二月一二日民集一五巻一一号二七三一頁参照)、本件においては、成立に争いのない甲第四〇証により鳥取県知事が本件土地区画整理につき施行規程を公布したと認められる昭和二七年五月当時、ないしは前記換地計画の変更決定がなされたと推認される同三〇年一〇月ころまでの状況に基づいて、判断されるべきである。弁論の全趣旨と公知のところによれば、本件土地は、鳥取市の中心部に近い古くからの市街地で、昭和二七年四月の鳥取大火に際しては幸うじて罹災を免れた地域にあるのに対し、本件換地は、同市効外の未だ市街化されていない地域にあつて、両者の交通の便や環境には著しい隔たりがあつたこと、しかし、本件土地は表通りの若桜街道から横通りに入つた所にあるのに対し、本件換地は、国道に面し、土質その他にも格別の問題はなく、将来の発展が期待されえた土地であり、また、前者が公簿上一九坪二合一勺と比較的狭小な宅地であるのに対し(原告らは、その実測面積を七七・七五平方メートルと主張するが、これを認めるに足りる証拠はない)、後者は、倍以上の四四坪六合八勺で、宅地として適正と考えられる規模となつたので、両者の利用条件にはさほど大きな隔たりはないこと、以上の事実が認められる。また、前掲甲第二四号証、乙第一九号証、第二〇号証の一ないし四によれば、両土地につき被告主張三(二)(4)のとおりの金銭による清算がなされたことが認められ、右清算においては、権利価額を本件土地につき坪当り一万三〇二四円(円未満切捨)、本件換地につき同じく三八五五円と評価したことが計数上明らかであつて、前者は後者の約三・四倍にあたる。以上の諸点を総合勘案してみると、本件換地が従前地と顕著に均衡を失すると認めることはできない。

(4) 原告らは、右金銭清算における評価額を争い、昭和四〇年ころ以降の本件土地および換地の適正時価を主張するのであるが、清算金の額は換地計画において権利価格を評定して定められるものであり、右主張のころの時価をもつてただちに本件換地計画の決定ないし変更当時の価格を推定することはできない。そればかりでなく、右に認定した本件換地計画における本件土地と本件換地との権利価格の比率は、原告ら主張の昭和四二年度および同四九年度における固定資産評価額の比率とも著しい隔たりはないし、原告ら主張の新町八番の土地の処分価格がただちに本件土地の適正時価に合致するとも認められず、本件換地の昭和四〇年ころの価格に関する甲第三四号証の二の記載および証人大久保菊蔵の証言は、成立に争いのない甲第三三号証の一によつて認められる同四二年度の右土地の固定資産評価額に対比しても、とうてい信用しうるものではない。

そして、客観的な土地の価格に比して清算交付金に不足がある場合でも、その点のみについて不服を主張することは可能であり、不足の程度がきわめて顕著な場合でないかぎり、換地処分自体を無効ならしめるものではないと解すべきである。

(5) そうすると、いわゆる照応の原則に照らしても、本件各処分に重大かつ明白な瑕疵があるものと認めることはできない。

三 したがつて、本件各処分は無効とはいえず、右無効を理由に、原告らが本件土地の従前の位置に相当する土地に現に所有権を有することを前提とする原告らの本訴請求は、失当であるからこれを棄却し、民訴法八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(第一、第二目録省略)

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